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小説・詩・他いろいろを載せて行きたいと思います。 旧サイト(http://kleinewelt.nobody.jp/)の作品も順次こちらに移動させていきます。 ブログでリハビリしながら、またサイトを作っていきたいなあと、のんびり思っている次第です。 それでは、よろしくお願いします。
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少年
 そこはかとなくただようものは無視してください。
 中村明日美子さん、好きなんですよ。
 そういう感じで頭の中で再生してください。


二人の少年
~a sun for singing~


 午前の講義が終わると、講義室から生徒たちがわらわらと出て行く。午後の講義までには一時間半あるが、時間が問題ではない。早く行かないと、食堂でも購買でも席も食べ物にもありつけないのだ。だから、みんな半ば必死で講義室を出て行く。
「君は急がないのかい?」
 声をかけられた少年は、かばんにノートと筆記具、テキストをしまい続ける。
「無反応?」
 声をかけた少年は、ハネ気味の金髪をいじくりながら、相手を塞ぐ形で前に立つ。
「……どいてくれないか?」
 声をかけられた少年は、やっと顔を上げ、不機嫌にそう言った。
「うん、やっぱりいい声だ」
 声をかけた少年は、満足そうに笑った。
「食堂に行けない」
「ぼくはね、君が詩人の一編を朗読するのをとても楽しみにしているのだよ」
「人の話を聞け」
「だからぼくは、君が声楽の方に進んで、オーケストラとともに舞台に立つ日をとても楽しみにしていたんだ」
 夢を見るようにうっとりと、声をかけた少年は言った。
「そうしたら、なんだい。君は声楽ではなく楽器を選ぶというじゃないか。ぼくはがっかりだよ」
「君には関係のない話だろう」
「関係のある話だよ。ここにもうひとり、君のファンがいるのだから」
「……男が声楽に進んでも、声変わりがあるんだ。今の声のままいられるわけがない。そのとき声楽に進んでも、後悔するだけじゃないか」
「君は本当に音楽を愛しているんだね」
 この国では、全ての子どもが3年間、国家の有する楽団に入団する決まりがある。楽団は国内での公演も行うが、メインは国外での演奏会だ。それが資源の少ないこの国が、唯一誇れる資源であり、外貨を獲得する手段なのだ。兵役の義務はないけれど、楽団に入団する義務はある。それがこの国なのだ。
「こうやって机を並べていても、義務で音楽をしている奴もいる。ぼくはそれがたまらなく頭にくる時があるんだよ」
 声をかけた少年は、続ける。
「でも君は、いつも無表情で、淡々としているけれど、音楽に関するときだけは少しだけ熱を帯びるんだ。今日の詩篇だって、あれは歌劇の一説にも使われているものだろう。それを朗読する君の声は、音楽に対する愛に満ち溢れているんだ。だから、ぼくは君に声楽に進んでほしいんだよ」
「それはきみのわがままだろう」
 声をかけられた少年はあっさりと切り捨てた。
「まあ、それはそうなんだけど」
 声をかけた少年はあっさりと引き下がり、道を空けた。
 声をかけられた少年はかばんを手に講義室のドアへと向かう。
「ねえ、歌ってよ」
 声をかけた少年が叫ぶと、声をかけられた少年は振り返り、
「アカペラは苦手なんだ」

 最終講義が終わってから夕食までの時間、夕食から消灯までの時間、聴こえてくるヴァイオリンの音色に惹かれていた少年は、その相手に声をかけられたことに内心どきどきしながら、その照れているのを相手に気づかれないようにわざと醒めた態度を取り、少年は講義室のドアを開けた。眩しい陽の光が廊下にあふれている。それと同じくらいに輝く髪を持つ少年が、追いかけてくる。
 今日の昼食は、にぎやかになりそうだった。

【了】
20081202


のざわさん、勝手にいじくってごめんなさい。
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無題

で、続きは?
>のざわさん

ちまちまとキャラを練り上げます。

いきあたりばったりのときは、突然のリクエストにドキドキです(笑)
無題

ふと再読して気付いた。

しょっぱなから、間違ってないっすか?
時間軸。
あわわわわ

ご指摘ありがとうございます。
遅くなりましたが,修正しました。

頭の中で彼らは息づいてるような息づいてないような。
ヴァイオリン弾きの方がにぎやかです。
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