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小説・詩・他いろいろを載せて行きたいと思います。 旧サイト(http://kleinewelt.nobody.jp/)の作品も順次こちらに移動させていきます。 ブログでリハビリしながら、またサイトを作っていきたいなあと、のんびり思っている次第です。 それでは、よろしくお願いします。
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ある勇者の話 ~another hero~
 勇者の話を聞くたびに、こんなことを思うのです。
ある勇者の話
~another hero~


 お言葉ですが王様、その申し出を私はお受けすることが出来ません。
 いえ、姫様に不満があるわけではございません。姫様を私に下さるなんて、身に余る光栄であります。姫様の髪は太陽のように輝いていて、肌は雪のように白く、瞳はサファイア。心根はお優しく、誰からも好かれていられる方。世に稀に見るほどのお方でございます。しかし、私にはその資格がないのでございます。
 はい、確かに私は、世界を闇に覆った魔王を打ち倒し、攫われていた姫様をその城から救い出しました。
 いえ、私とともに魔王討伐に赴いた者がいたからではございません。確かに、彼らがいなければこのような結果を残せなかったでしょう。神官の治癒術がなければ道半ばで倒れていたでしょう。魔法使いの魔法がなければ、打撃の効かない魔物相手に敗れていたでしょう。戦士のその武力がなければ、一人では倒せぬ敵を前に力尽きていたでしょう。彼らがいなければ、今日のこの日を迎えることは出来ず、魔王は未だ力を奮い、姫様は捕らわれの身のままだったでしょう。
 しかし、それを抜きにしても、私にはその資格がないのでございます。
 王様、少しばかり私の話に耳を傾けてはくれませんか?
 ……ありがとうございます。何もそれ以上の褒美を得ようと思ったわけではございません。
 先ほども申しましたように、今回のことは私一人の力で成し遂げたことではございません。神官と魔法使いと戦士、そして私。この四人がいたことによって成し遂げることが出来たのです。
 しかし、これら四人は、なにもこの四人でなくても良かったことなのでございます。
 言い方は乱暴ではございますが、神官よりも治癒術に造詣の深い者はいますし、魔法使いよりも魔術に長けた者もいます。戦士よりも武術に優れた者はいますでしょうし、そして私以上に強靭な者もいるでしょう。世界中を捜せば、私達以上に優れた者は数多くいますでしょう。
 もちろん、今回のことは私達だからこそ成し遂げられたという自負はございます。他の者達では、私達のような強い結びつきは得られず、数々の困難を越えられることも出来なかったでしょう。
 いえ、他の者に対する褒美のことが出てないから不満なのではございません。そうではないのです。
 申したように、私達四人は、掛け替えのない四人であり、世に一組だけの四人でございます。しかし、その四人の中のそれぞれよりも、優れた者はいて、別の四人であったかもしれないのです。
 はい、確かに前置きが長すぎました。しかし、これらは話すべきことなのでございます。
 取替えのできる四人。それが私達であるのです。別の偶然が働けば、この四人は別の四人であったかもしれないのです。
 しかし、これはそうではないのです。
 そう、この魔王を倒した剣は。
 普通の武器では傷つけることさえ出来ない魔王。そうであるが故に、姫様が攫われた時に誰もそれを止めることが出来ず、討ちに行った勇士達はことごとく敗れ去りました。特別に鍛えられた剣でなければ倒せない魔王。世界で唯一魔王を倒すことが出来るこの剣は、私達と違って何か別のものと取り替えることは出来ないのです。
 いえ、同じものを鍛えることはもう無理なのです。世界でたった一つの特別な原料を用い、特殊な条件において鍛えられたため、もう二度と同じものは作れないのです。
 この剣がなければ、幾ら私達でも、また、私達以外の腕の立つ者達でも、あの魔王を倒すことは叶わなかったでしょう。
 ですから、私はここに申し上げたいのです。
 真に栄誉を授かり、この世界で唯一の姫様を娶ることが出来るのは、この剣を鍛えたあの若き鍛冶士であることを。
 私は、いえ、私達四人は、自分よりもあの男こそがこの世を救った真の勇者だと思っているのです。
 仰るとおり、剣を鍛えることは、確かに誰でも出来そうなことです。彼よりも優れた鍛冶士もいたことでしょう。しかし、彼は他の鍛冶士と違う面がありました。それは彼の勇気です。彼は他の鍛冶士が尻込みするような火の山に、私達とともに入り、命を狙ってくる魔物との戦闘をかいくぐり、火の山の主であるドラゴンとも渡り歩き、彼らが守っていた原石を貰い受けました。私がいただいたのでも、彼ら三人がいただいたのでもありません。竜は、その鍛冶士の男に与えたのです。彼を信頼して、与えたのです。そしてまた、それを扱うのはとても危険の伴うことでもあったのです。原石を剣へと鍛えられる状態にするまでも、何度も危険がありました。寝る間を惜しんでの精錬の作業、そしてそれ以上に過酷だった鍛冶の作業。魔力が渦巻き、一歩間違えば彼は命を落としていたでしょう。しかし、彼は一言も諦めることをせず、一心不乱にこの剣を鍛えてくれました。ある時、私は彼に聞いたことがあります。どうしてそんなにがんばれるのか、と。確かに世界の危機が迫り、その剣が出来なければ世界は滅んでいたことでしょう。でも、世界の危機と自分の命を比べた時、世界の危機を迷わず選べる人は数少ないのです。私達も、何度となくそれら二つを比べて、揺れ動いたものです。しかし、彼は違ったのです。
 彼は疲労の色の濃い顔に、目だけが夏の空のように輝く顔で言ったのです。
 こうしている間にも、姫様は死ぬような恐ろしい目に遭っていることでしょう。それなのに、どうして私がたったこれだけのことを我慢できないのでしょうか。
と。
 私は、その時自分が恥ずかしくなりました。
 私が旅立つことになったのは、占師の占によるものでした。自ら志願したわけではありません。腕に覚えはありましたが、自ら買って出ようとは思っていませんでした。ですから、魔王に囚われているという姫様へ、恐れ多いことですが思いは及ばなかったのです。
 でも、彼は違った。彼は目の前に自分の死が近づいているというのに、それよりも姫様へ想いが勝っていたのです。
 不眠不休の作業の甲斐あり、神の祝福を受けたその剣が完成し、私にそれを差し出した時の彼の姿。私はその時、初めて勇者の姿を見ました。そして、その時やっと、私は勇者である自覚を得たのです。
 恥ずかしながら、その時まで私には勇者としての自覚がございませんでした。
 もちろん魔王は倒さなければならない存在であり、姫様を早く救わなければならないという思いはありました。しかし、勇者、という存在が自分であるという意識はなかったのです。人々が私をさして、勇者、と呼ぶ時、私はそれが自分をさすものであるという思いが浮かばなかったのです。勇者という役割を演じているというだけで、自分自身が勇者であるとは思えなかったのです。
 それが、その瞬間変じたのです。
 勇者という存在が、私の姿に重なったのです。
 彼がいなければ、彼という存在がなければ、この剣は生まれなかったし、勇者である私は生じなかったのです。
 ですから、褒美を与えるならば、彼に、鍛冶士の彼に与えて欲しいのです。
 はい、彼はとても実直な青年です。責任感が強く、優しく、思いやりに溢れた青年です。
 ええそうです。彼は鍛冶の町に今も住んでいることでしょう。彼の家は代々続く鍛冶の家で、彼は跡継ぎではなく、末息子でした。成人すれば家を出なくてはならない身の上で、だからこそ、自分が死んでも誰にも迷惑がかからないからと、その役目を担うことを自ら引き受けたのです。
 お迎えを? きっと彼も喜ぶことでしょう。許されるのであれば、私もご一緒させて下さい。この剣を受け取ってから、一度も彼に会っていないのです。魔王を倒し、姫様を救い出すまでは戻ってくるなと言われていたのです。
 ええ、私は彼が好きなのです。あれほどの男に、私は会ったことがなかった。彼という友人が得られてことを、私は神に感謝したい。
 是非とも、今すぐにでも、彼の元に向かいたいのです。
 はい、ありがとうございます。きっと彼も喜ぶことでしょう。彼は本当に、姫様の御身を案じていたのです。

 ずっと考えていた。再会した時、なんと声を掛けようかと。お前がなんと言葉を掛けてくれるのかと。
 魔王を倒し、姫様を救い出したという一報は、一体どのようにしてお前に届いたのだろうか。きっと喜んでくれるだろうと、ずっと思っていたんだ。
 お前の鍛えてくれた剣が魔王を貫いたんだ。あの瞬間を、お前が始めてたった一人で鍛えたという剣が世界を救ったその瞬間を、俺はお前に見せてやりたかった。
 お前は、ずっと自分をいらないものだといっていた。鍛冶屋の、五人兄弟の末っ子。いてもいなくてもいい存在。だからこそ、死の危険のある俺達の申し出を受けてくれた。誰もが尻込みして、色々な理由をつけて蹴った話を、お前は二つ返事で引き受けてくれた。俺は思う。お前は自分がいらない、駄目な奴だと言っていたが、そんなことはない。お前は誰よりも勇気のある男だ。世界に最も必要な男だったんだ。
 竜に認められた時、お前は身に余る光栄だと興奮していたが、俺はそうは思わなかった。認められたのは当たり前なんだ、お前はそれ相応の男なんだから。
 今、誰もがお前を認めている。誰もがお前を勇者だと思っているんだ。
 それなのに……それなのに……どうしてお前はこの場にいないんだ。

 もう一人の剣の勇者は丘の上に眠る。
 魔王が倒されたことも、その魔王に攫われた姫が救われたことも知らずに。
 勇者に剣と自分の願いを託し、もう一人の勇者は眠りについた。
 何も知らずに、知ることも出来ずに。
 しかし、勇者のその顔は、とても満ち足りて、安らかなものだった。
 それは、自分の鍛えた剣が必ず魔王を打ち倒すと信じていたか、あるいは、剣を託したもう一人の勇者が、必ず魔王を打ち倒し、攫われた姫を救うと確信していたか。
 それを知ることは、もはや叶わない。
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