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小説・詩・他いろいろを載せて行きたいと思います。 旧サイト(http://kleinewelt.nobody.jp/)の作品も順次こちらに移動させていきます。 ブログでリハビリしながら、またサイトを作っていきたいなあと、のんびり思っている次第です。 それでは、よろしくお願いします。
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動作のお題20
動作のお題20by 鳥篭/お題配布場所http://uccello.skr.jp/100/

一挙掲載です。
01:手を伸ばす
02:本を読む
03:寝転がる
04:歩く
05:座る
06:ものを投げる
07:あやとり
08:ツッコミを入れる
09:立ち上がる
10:つまづく
11:ものを掴む
12:手紙を書く
13:洗濯物を干す
14:服を着る
15:歌う
16:飛び降りる
17:蹴る
18:背負う
19:絵を描く
20:抱きしめる
あとがき
01:手を伸ばす


 真っ直ぐに上に伸ばした時に、そのシャツの袖から覗く白い手首。
 それに色気を感じてしまって、黙って眺めていると、思いっきり睨まれた。
 僕の肩までしかない君が怒っても、僕には可愛く映って仕方がないんだけれど。
 そんなことを思って笑ってしまったら、伸ばされた手で頬をつねられた。
 でも、それだって逆効果なんだよ? 分かってるのかなあ……


02:本を読む


 下に向けられた顔。
 襟から覗く白い首。
 さらりと垂れる前髪。
 伏し目がちの瞳。
 ゆっくりとした動作。
 浅い呼吸。
 丁寧に動く指先。

 厭きずに眺めていると、不意にその顔が上がった。

 ――ごめん、気付かなかった。

 言って、へらっと笑う。
 さっきまでの少し緊張した面持ちが台無しだ。
 でもまあ、いいか。


03:寝転がる


 寝ている。
 部屋に入ろうとドアを開けたら、何かに突っかかって開かない。ちょっとだけ開いた隙間から中を覗き見ると、背中があった。
 また勝手に入って。
と溜め息をついても始まらない。この友人は、一度寝てしまうと、滅多なことでは起きないのだから。
 どうせまた、ベランダ伝いに来たのだろう。そして、驚かせるために部屋で待っていて、で、眠くなって寝てしまった。
 あほらしい。
 が、口からこぼれるのは笑みである。
 しょうがない、起きるまで待ってやるか。そう思って、コーヒーを淹れに行った。
 不意に背後から、
 遅いぞぉ~
と聞こえてきたが、寝言である。


04:歩く


 彼女は、一歩一歩、大きく、大地を踏みしめるように歩く。
 初めて、彼女が歩いているのを見た時、私は、
 ああ、アレが歩くって言うんだ、
と思った。
 普段何気なくしている、歩く、という行為。誰もが、物心ついた時からしている動作。初めて歩いた時なんて、誰も覚えていない。ただ、親が時折口にするだけ。
 だから、誰もが、歩く、という行為そのものに、何の感慨も抱いていない。
 でも、彼女は違う。彼女を見ていると、歩く、ということの意味が、ひしひしと胸に迫ってくる。
 歩く、
ということは、
 生きる、
ということなのだ。
 一歩、一歩、また一歩。彼女は歩く。歩き続ける。生き続ける。全身で、生きているということを表現している。

「楽しそうに歩くね」

と彼女に言えば、

「だって、歩くのは楽しいことだもの」

 そう答えが返ってきた。

「私はまだ、歩き始めて三歳だから」

 そんな彼女の足は、機械仕掛け。


05:座る


 ……俺は耐えていた。もうずっと、立ったまだだ。
 朝、家を出る時に立ち上がった。
 それからずっと、座っていない。
 電車は混んでいて座れなかった。
 買い物中はもちろん座れなかった。
 昼はどこも混んでいたので立ち食い蕎麦だった。
 昼からも歩きっぱなしだった。
 ずっと、ずっと、色々な店を回り続けた。
 ずっと、ずっと、立ちっぱなし、歩きっぱなしだった。

 そして、帰りの電車、そこもやっぱり混んでいて、立ちっぱなし。
 ――駅に着いた。人が降りて、人が乗ってくる。
 席が空く。しかし距離がある。動こうとする前に、それが埋まる。また座れず。
 そして、俺の一日は終わっていく。
 ああ、座りたい。
 俺が何したって言うんだ。


06:ものを投げる


 あーあ、とあたしは溜め息をついて部屋の中央にうずくまった。
 いつも汚い部屋は、いつも以上に汚くなっている。
 棚の上に綺麗に並べていたぬいぐるみは、無残にも部屋の色んな所に落ちている。ぽてり、と。
 それを肩越しに見やって、あたしはまた大きく溜め息をついた。
 分かっている。分かっているのだ。この子達に罪はない。
 でも、当たらずにはおれなかったのだ。そうしなければ治まらなかったのだ。
 ……ああ、分かっているから、そんな目で見ないでちょうだい。
 悪いのは全部あたしだ。だから、あんた達は悪くない。
 あたしは手近にあったクマのぬいぐるみを手に取ると、そっと胸に抱いた。
「ごめんね」


07:あやとり


 右手、左手、手を返し、親指……
 ゆっくり、ゆっくり、シワのある細い指で紡がれるのは、様々なもの。
 ちょうちょ、
 ほうき、
 とんぼ、
 かめ
 かぶと、
 あさがお
 つつじ、
 手の中から紡がれる様々なものに、目を輝かせて見入ったのは幼い日の私。
 何度も何度もせがんでは、色々なものを紡がせた。
 しかし、今はそれも叶わず、魔法の紐は古棚の奥にしまわれた。

 そして今、私はそれを取り出して、あの時紡いでくれた手よりも大きくなった自分の手で、その紐で世界を紡ぐ。
 あみ、
 かわ、
 うまのめ、
 つづみ、
 ふね
 いちだんばしご、
 にだんばしご、
 さんだんばしご、
 よんだんばしご……


08:ツッコミを入れる


 ほら、寂しいじゃんか。
 こっちが身体を張ってボケてるっていうのに、それに対する反応がないっていうのはさ。
 寂しいわけですよ、ボケとしては。
 何て言うのかなあ、ほら、人っていう字があるじゃん。学校で習わんかった?
 人と人が支えあって、人っていう字が出来てるんだ、
ていう奴?
 それと同じだと思うわけですよ。
 一人が行動を起こしたら、つまりは、身体を張ってボケたらさ、相方にはそれに対して全力でツッコミ入れて欲しいわけですよ。
 分かんないかなあ。
 う~ん、だからさあ。ボケには必ずツッコミが必要なわけで。
 だからね、もう……俺っていうボケにはさ、お前みたいなツッコミが必要なわけなのよ。
 だからさあ、ボケである俺についてこいって。
 な、知ってるか? お笑いのコンビってさあ、ボケがネタ作ってるほうが多いんだぞ。ボケのほうが頭使って、コンビがうまくいくようにしてんだ。
 俺もそうするからさ、な、俺と人生のコンビを組んでくれないかな。お前がいたら、俺はきっと誰よりも面白い人生を送れるし、お前だって、そうだと思うんだけどな。


09:立ち上がる


 立ち上がったら、急に目の前が暗くなった。
 ああ、まただよ、と思う。
 貧血だ。よくあるのだ、こういうことは。立ち上がると目の前が暗くなり、悪い時には音さえ遠くなり、ついで意識も遠くなる。
 めんどくさい。
 下手に動くと、それこそくらっといってしまうから、動くに動けない。
 で、まるでお人形さんのようにその場に固まってしまう。
 暗くなっているのはすぐに回復する。でも、やっぱり一瞬動きを止めるのは、誰の目にも不思議に映るらしい。本当のことを言うと、いつも、大変だね、と言われる。
 でもさあ、こっちはこれが当たり前なんだから、別に大変だ何て、思わないんだけどなあ。と内心思うが、もちろん口には出さない。出したって意味がない。
 そして今日も、一瞬動きを止めた私は、目の前が明るくなってからおもむろに動き出す。

 そんな私についたあだ名は、
 オートマタ、
 突然動きが止まったかと思うと、また動き出す。
 そんなところが似ているそうだ。



10:つまづく


 きっと、頭が重い所為だろう。
 重心が高いから、そんな風に面白いぐらいに転ぶのだ。
 あっちでころり、こっちでころり、転ぶたびにあちこちで、甲高い泣き声が響く。
 うるさい、頭に響く。
 でも、文句は言っていられない。これが今の俺のバイトなのだから。
 大丈夫、といった感じで、テクテクと近付いていく。
 大丈夫? 大丈夫? 泣かないで、痛いの痛いの飛んでいけー。
 全身で表現。
 疲れるけど表現。
 それが俺のしご――
「おぅわあ!」
 大きい足が、小さな段差に躓いて、そのまま、げべしょ。
 …………泣いていた子ども達が、いっそう大声で泣き出した。
 無理もない、みんなの大好きなビッキー君(ビックリランド・マスコットキャラクター)の頭がとれたのだから。
 ざわざわと人が集まってくる。そして、泣き出す子ども達。
 …………泣きたいのはこっちのほうだ!
 ああ、二日酔いの頭に響く。


11:ものを掴む


 ぎゅ、と一度掴まれたらもう終わりだ。
 見ると、丸いくりくりっとした黒い瞳が、真っ直ぐにこちらを見ている。
 ああ、逃げられない。
 こんな小さな手、ちょちょいっとすればすぐに解ける。本当に、あっという間に解けるだろう。
 でも。
 ……そうしたらもっと面倒なのだろうな。
 はふう、と息を吐いて、座り直す。
 にんまり、と笑う。笑ったって、何にも出やしないのに。
 こいつらは動けないから、こうやって、ぎゅ、っと掴むのだ。
 だからこんなにも力が強い。
 いやいや、そうじゃない。掴む力自体は弱いのだ。でも、掴もうという意志が強くて純粋で、だから、私達はこれを解けないのだ。
 ものを掴むって、単純だけど、特別だ。


12:手紙を書く


 お久し振りです。私のことを覚えていますでしょうか。

 いつも書き出しに困る。なんと書いたらいいものか。もし手紙を貰っているのであれば、お手紙ありがとうございます、と書けばいい。でも、こちらか出す時、書き出しに困る。
 でも、便箋を前にペンをいじくりながら、さあなんて書こうかしら、と思う時は、苦労の半分は終わっている。
 相手のことを考え、便箋を選び、ペンを選び、それが苦労だ。苦労というが、半分は楽しみでもある。
 相手のことを思い、それは大抵は長いこと会っていない相手だ。時には初めての相手もいる。会ったことがないばかりか、相手はこちらを知らない時もある。そんな相手に出す便箋はこちらの顔で、ペンの色はこちらの声だ。
 選ぶのに苦労しても不思議ではないし、それを楽しんでも不思議ではない。
 仲のよい友人同士であるのなら、ポップな感じの便箋を。
 目上の相手であるのなら、無地のシックな便箋を。
 母であるのなら花を、父であるのなら草を、姉であるのなら海を、兄であるのなら木々を、弟であるのなら犬を、妹であるのなら猫を描いた便箋を。
 そしてペンは、細いの、太いの、中くらいの。色は黒、青、深緑。
 相手に、便箋に合わせて、選ぶ時は楽しい。
 文章は、そのまま思いつくままに、事前に書いておいて、書いては捨てて書いては捨てて……
 そうして書き上げた便箋を、丁寧に折り畳み、恭しく封筒に入れ、封をする。切手を貼り、投函した後、私はポストに頭を下げる。


13:洗濯物を干す


 安心する風景というのが人にはそれぞれあるのだと思う。
 僕にとってそれは、洗濯物を干す母の後ろ姿だ。
 ランドセルと背負い、角で友人と別れ、一人で辿る家路。
 すぐそこだけど、今まで賑やかな空間にいた反動で、心はどこか寂しい。
 が、庭で洗濯物を干す母の後ろ姿を見ると、途端に心は弾むのだ。
「ただいま!」とランドセルを鳴らして叫ぶように言うと、母はくるりと振り返り、
「お帰りなさい」と笑ってくれる。
 それが嬉しかった。

 今、僕は再び母に迎えられる。遠い日の母に。
 遠慮がちに、
「ただいま」
と言うと、
「お疲れさま」
とあの日見た母が振り返って笑った。
 僕はあの日の子どもに戻って、その母の腕の中に飛び込んだ。


14:服を着る


 別に減るもんじゃないし、
と言ったら怒られた。
 何が重要なんだろう。
 ありのままを見せなさい、と言うくせに、そんなことを言うのね。
 矛盾してる。
 恥じらいがないのか、
と怒鳴られた。
 恥ずかしいって気持ちは分かる。
 みっともないって気持ち、嫌っていうほど味わってきた。
 自分はまだまだだってこと、充分承知してる。
 でもさ、それとこれとは違うでしょ。
 布一枚で、どうしてそんなことを言うのかしら。
 どこにも違いなんてないじゃない。
 そんなことを言ったら、
 君は禁断の実を食べなかったのか?
と言われた。
 変なの。


15:歌う



 La La La...

 La La La...

 届いてますか? 私の声が。


 La La La...

 La La La...

 届いてますか? 私の願いが。


 La La La...

 La La La...

 あなたの許に、届いてますか?


 La La La...

 La La La...

 届いてないの、私の声が。


 La La La...

 La La La...

 届いてないの、私の願い。


 La La La...

 La La La...

 あなたの許に、届いてないの。


 La La La...

 La La La...

 私はあなたの許に行かないわ。
 私の声が、私の願いが、
 あなたの許に届いてないのだから、
 私自身も届かない。
 だから、私はあなたの許には行かないわ。


 La La La...

 La La La...

 このまま鼓動が止まっても、
 このまま呼吸が止まっても、
 私はあなたの許には行かないわ。
 きっと迎えも来やしない。
 もし迎えが来たならば、
 その手を払う。


 La La La...

 La La La...

 取る手はきっと、
 私の声を聞いた者、
 私の願いを聞いた者、
 たとえそれが、あなたと対極にあったとしても。


 La La La...

 La La La...

 だから、神様、私は地獄に落ちちゃうの。
 あなたが私の声も、願いも、受け取らないから、
 だから、神様、私は地獄に落ちていく。
 あなたの所為じゃない、
 私の所為じゃない、
 ただ、悪魔が声を、願いを受け取った。
 ただそれだけのこと。

 La La La...

 La La La...

 La La La...

 La La La...

 .....................bye-bye


16:飛び降りる


 一番最初の記憶は高層ビルの屋上で、私をきつく抱きしめる母の、強風に踊る長い黒髪だった。

 私は今、上空四千メートルにいる。富士山よりも高い。
 どうしてそんな上空にいるのか、今からスカイダイビングをするからだ。ちゃんとした資格は持っていないからインストラクターの一緒のタンデムスカイダイビングだ。
 今日が初めてで、緊張している。
 二十分間の遊覧飛行、その後のダイブアウト。五十秒間のフリーフォール。そして、地上約千二百メートルでパラシュートを開いて、十分程空中遊泳を楽しんだ後に着地。全部インストラクターがしてくれる。エアカメラマンに写真も撮ってもらう。ひどい顔にならないといい。
 撮った写真は実家の母親に送るつもりだ。笑顔で、青空の中笑う自分の姿を、母親に見せるのだ。見せる必要があるのだ。
 あの日、私をきつく抱きしめた母に。
 あの高層ビルの屋上からエレベーターで降りて、歩いて地下鉄の駅まで行って、切符を買い、地下鉄に乗り、家に帰った。
 母は笑う。
「ことりさんのようにとべるの?」
と瞳を輝かせた私がいたから、今生きているのだと。

 私は今、自らの意思で飛び降りて、地上に生還するの。
 私が生きている証として。


17:蹴る


蹴ることは、ないと思うのですよ。そう思いませんか?
ただ、ちょっとだけ、本に夢中になってただけじゃないですか。
ただ、ちょっとだけ、呼びかけに応じなかっただけじゃないですか。
だって、最初に私が本を読んでたんですよ?
だって、あなたが来たのが後でしょう?
だから、ちょっと、気がつかなかったんですよ。あなたが来たことに。
驚くじゃないですか。急に来て。
何も言わなかったじゃないですか、来る、なんて。

だから、そう怒らないで下さいよ。
本に夢中になっていたことは謝ります。
呼びかけに応じなかったことは謝ります。
あなたが来たことに、気づかなかったことは謝ります。

でもね、蹴ることはないでしょう。
そんな、足の裏で、背中をげしって。
結構痛かったんですよ?

謝りますから、ねえ、許してください。
ね、あなたが来てくれたことは、すごく嬉しいんですよ?
だからね、機嫌を直してください。
ね。


18:背負う


 ゆっくりと、ゆっくりと、増えていく。
 いつの間にか増えていく。
 ずっしりと、重くなっている。
 ずっと見て見ぬフリ。
 気が付かないフリ。
 でも、それも限界。
 まず足にきて、あっという間に崩れてしまう。崩れてしまった。
 重くて、苦しくて、息が出来なくて、もう立ち上がる気力も出てこない。
 顔を上げてみたら、またひとつ、ふたつと増えていくのが見える。
 もうイヤだ、もうヤメテ。大声で叫んでも、誰も聞いてくれない。
 たった一人で叫んで、声も嗄れて、涙も乾いて。
 もう無理だ、無理だ。諦め。
 もうイイ。もうイイや。
 無理して立ち上がって、また歩くしかないんだから。
 だから、無理して立ち上がって、また歩きだす。
 そしてまた、増えていく。

「ね、無理していいことってあるの?」
「………………」
「ダイジョウブ。ダイジョーブだよ。そんなもの、投げ出しちゃえ」
「………………そんなの、無理じゃない」
「どうして? ほら、もう、ぼろぼろ落ちてるよ」
 すうっと、軽くなる。暗示にかかったみたいに。
「必要ないものなんて、呆気なく投げ出しちゃえば良いんだよ。あんなの、勝手に積み重なっていくんだから、こっちが勝手に投げ出しちゃったって、向こうは文句は言えないよ」
 言って、軽やかに体を動かす。
「………………私に出来るの?」
「誰にだって出来るんだよ。ようは、こころの持ちようでしょ」
 その笑顔を見て、また軽くなった


19:絵を描く


 時々訳が分からなくなる。
 自分はどうして今、ここに居るのだろうか。
 自分はどうして今、こんなことをしているのだろうか。
 でも、自分の中から沸き起こってくる衝動は、どうしても抑えがたくて、だから、こんなことをしている。
 全てを塗りたくって、もとの地を消して。それに何の意味があるのかなんて、余計分からない。

「私、これ、けっこう好きだな」
「は?」
「この絵、私けっこう好きだよ」
「どこが?」
「……あのさ、フツー、自分で書いたものを褒められて、どこが、なんて訊かないよ」
「だったら俺はフツーじゃないんだよ」
「ああ、だからこんな絵が描けるんだね。私、けっこう好きだよ」

 放課後の美術室には、自分達しかいなかった。

「また描いてね」
「なにを?」
「こんな絵。いっぱい描いて、で、気が向いいたら私に頂戴」
「持って帰るのが大変だよ」
「そうだね。だったら持って帰れる大きさの何かを頂戴」
「それは物でもいいの?」
「まさか。あなたの絵を、私に頂戴」

 絵を描く理由なんて、いつも分からない。
 一度も、分からない。



20:抱きしめる


 そっと腕を回して、
 そう、腋の下から、
 脇腹を撫でるようにして、
 後ろに回した手で、
 ぎゅっとその背中をつかむ。
 胸と胸を合わせて、
 お互いの鼓動を溶けあわせて、
 たった一個の塊になるように。
 目を閉じて、
 耳で息遣いを聴いて、
 鼻で匂いを嗅いで。
 いつもよりも少し早い鼓動の音に、
 二人して笑って。

 ねえ、好きだよ、

 見つめ合うよりも強く。

 愛してる、

 耳元で囁くよりも雄弁に。

 側にいて欲しい、

 口付けるよりも深く。

 その心に刻んで、
 その身体に刻んで。

 交じり合うよりも、それは強く、雄弁で、深いもの。

 交差された四つの腕、
 一つの熱となる躰、
 存在を溶け合わせて、互いの鼓動で眠りに落ちる。

 今、無上の喜びを感じた。



あとがき


はじめて完成させたお題でございます。
動作のお題。徒然記のほうでちまちまと更新していたものです。
なるべく短く、簡潔に、動作というものを表現していこうと思ったわけですが、成功しているのでしょうか?
04:14:15とかがお気に入りです。
皆さんのお気に入りは、どれでしょうか?
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